ASDの「触診で痛みの基準がわからない問題」と「同じ人がいる、という安心感」について。

私は触診が苦手だ。

婦人科の触診とか、異性のお医者さんに触れられるのが苦手とか、そういうのはよく聞くけど、私の場合は少し違う。

すべての科において、どのお医者さんでも苦手なのだ。

好きな食べ物がバラバラなように、同じ診断を受けていても、得意なこと・困っていることは人それぞれ。このブログに書かれていることは、発達障害者みんなが感じていることではない。私が思い、考えていること。たった一つの事例。

私と同じことで困っている人に、私のような人を理解したいと思う人に、届いたら嬉しいと私は思う。

苦手な理由

その1:お医者さんが尋ねる「痛い」の基準がわからない。

どの病院・診療所に行っても、たいてい触診はあって、みんな私の身体を押したり動かしたりして、こう尋ねる。

「これは痛いですか?ここは?ここは?」

先生の尋ねる「痛い」とはどんなものなのか、その基準が私にはわからない。痛いと言えば全部痛いし、痛くないと言えば全部痛くない。

「痛み」そのものがわからないわけではない。痛いから病院にきている。でも、押されて感じる感覚と、私が病院に通う原因となった痛みは違う。ぜんぜん違う。

先生の言う「痛み」はいったいどれなのか?、それがわからないから、私はうまく答えることができない。

もし「痛みの感覚」を共有できる何かがあって、一度でいいからその感覚を教えてもらえたならば、私は次から「痛いです」「◯◯な痛みです」と、ちゃんと答えることができるのに……、そんな風に思っている。

その2:複数の情報を同時に処理できない

私は「たくさんの情報をいっぺんに処理する」のが苦手だ。

PCで言うところの、メモリが少ない状態である。

触診で他人に自分の身体を触られると、「触れられている」という感覚の方に意識がいってしまい、他のことに頭を使えなくなってしまう。

「触れられるのが嫌い」というわけではないのだが、触れられている最中に何かを話しかけられても、私の頭にはさっぱり言葉が入ってこないし、頭の中で言葉を作ることもできない。

だから私はいつも黙り込んでしまったり、目を泳がせながら「えっと、あっと、い、痛い?と思います……?」なんていう反応をしてしまって、お医者さんを困らせてしまう。そして、私自身も困り果てる。

そりゃそうだろうと思う。自分の身体のことなのに、どうしてわからないのか。私がわかっていないのに、先生がわかるわけがない。

「わからない」苦しさと、先生の苦笑い。私は触診が苦手だ。

私だけ?

「自分の基準で答えたらいい」「適当に答えたらいい」

悩む私にアドバイスをくれる人もいる。みんな私に優しい。でも、私はそれを実行することができない。自分の基準と他者の基準の差異がわからないから答えられないし、「適当に」もわからない。本当に申し訳ないと思う。

私の悩みを聞いて「大変だね」と、理解してくれる人はたくさんいたけれど、感覚を共有できる人に今まであったことがなかった。

「どうして同じ悩みを持つ人がいないんだろう?」

私はそんな二次的な悩みも抱えていた。

いた!私だけじゃなかった!

先日、偶然にも私と同じ悩みを持っている人の文章を読む機会があった。

第51回NHK障害福祉賞 優秀作品
~第1部門~
「ふつうにふつうの服を着るよろこび」
https://www.npwo.or.jp/wp-content/uploads/2017/01/5103_yusyu1_tanaka.htm

私は昔から病院が嫌いだった。病状を自分で説明しろというのがよく分からないのだ。病院が嫌いになった理由のひとつにはこういうこともある。
子供のころ、背中が痛くて病院に行くと、痛みの種類をニュアンスで答えてください的なお医者さまがいらして、しきりに
「ガンガンですか? ズキズキですか?」
みたいなことを問われるのだが、あなた、そういうことはまずありとあらゆる種類の電流を私に流して「はい、これがズキズキの痛みです」「次に、これがチクチクの痛みです」「えー、これは、ガンガン、ですね」とかやってから尋ねてください、お願いします、と心底思ってしまった。
だって、どんな痛みが「ガンガン痛い」なのか、どんな痛みが「ズキズキ痛い」なのかを、私は知らない。私はそれきりその場で何も言えなくなってしまった。するとお医者さまは半笑いで、
「自分のことも言えないの?」
と言った。はい、分かりません。すみませんでした。それから私は病院もお医者さまも大嫌いだ。

「わかる!わかるよ!本当にそうだよね!!!!」

最初から最後まで、うなずき続けながら読んだ。

その文章を書いたのは、発達障害(ADHD/ASD)の診断を受けている人だった。人によっては、悲しむことなのかもしれない。「あぁ、やっぱり自分もそうなのかな」って。私のような宙ぶらりんの状態なら、なおさら。

※同じような感覚を持っているからと言って「もしかして私も……」と、思わないでほしい。あなたと私の外見が全く異なるように、生まれ持った特性も、みんなバラバラなのだ。

でも、私はその文書を読んだとき、本当に嬉しかった。障害の有無なんてどうでもよかった。ホッとした。思わず家族に報告してしまった。

「聞いて!同じ感覚を持っている人を、やっと見つけた!私だけじゃなかった!」

人間は、自分と同じ文化を持つ人間を見つけると、とたんに安心することができる。他者を通して、自分を肯定することができる。そういう風にできている。

同じ悩みを持つ誰かのために

「触診での痛みの基準がわからない」「人に触れられるとパニック状態になる」そんな悩みを持つ人は、私達2人だけではないはずだ。絶対にもっといる。何十人も、何百人も、もしかしたら何千人もいるかもしれない。

でも、私達はお互いを知らない。みんな一人で耐えている。

だから私は伝えたい。偶然ここにやってきたあなたに。名前も顔も知らないけれど、同じ「世界」に住んでいるかもしれない、あなたに。

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わかる、わかるよ。私も同じ。
困るよね。大変だよね。
あの「苦笑い」すごく辛いよね。
触られたら、わけわかんなくなるよね。

あなたひとりじゃないよ、大丈夫。

いや、ぜんぜん大丈夫じゃないんだけど。
現在進行系で困っているけれど。

でもさ、なんとか自分にあった方法をみつけて
やっていくしかないよね。

私はね、次は「触診が超苦手です!」って
先に宣言しようと思う。言えるかな。
まだやったことないから、わからないけど。
うまくいったらいいな。

あとね、こういうのも読んだりしたよ。

伝わるかで治療に差 「痛み」の伝え方7つのポイント
https://style.nikkei.com/article/DGXKZO15253040T10C17A4NZBP01?channel=DF130120166089

どこかしら、役に立つといいな。

同じ人を見つけた時の私のように、
これを読んだあなたの心が
少しでも楽になりますように。

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さて、明日は何を書こうかな。